日系企業の海外拠点ITプロジェクトが失敗する理由|「ハーフ日本・ハーフ海外」という文化構造

日系企業の海外拠点で行われるITプロジェクトは、単なるシステム導入ではなく、複数の文化と統治構造が重なり合う複雑なプロジェクトです。

一見すると「海外拠点」と「海外ITパートナ」という、お互いが海外の流儀で動くシンプルな構造に見えますが、実際にはそれぞれが異なる前提で動いており、相互理解が成立しにくい状態が生まれています。

特に重要なのは、日本企業の海外拠点が“海外文化を熟知した現地拠点”ではなく、文化的にも構造的にも変形している存在であるという点です。


海外拠点ITプロジェクトが失敗しやすい構造的理由とは

まず前提として、海外拠点のITプロジェクトは「海外ローカルが対象」でありながら、ローカルだけでは完結しない構造を持っています。

海外拠点のITプロジェクトが失敗しても、単に海外拠点が悪かったでは終わらせられません。つまり、日系企業の海外拠点ならではの「構造的な問題」が潜んでいると考えています。

海外拠点ITプロジェクトはなぜローカル案件として完結しないのか

海外拠点のITプロジェクトは現地拠点を対象にした取組みである一方で、常に以下の要素が影響します。

  • 日本本社からの統制、グローバル標準
  • 海外現地のITパートナとの契約条件(海外現地ITパートナのやり方)

このため、海外拠点だけで物事を進めることは難しく、常に外部の関係者と連携しながら、プロジェクトを進めることが必要になります。

  • ここで重要なのは、「海外現地だけの取組み」ではなく、「構造的な難しさ」が内包されて、プロジェクトが始まっている点です。

プロジェクトへの制約があることが、前提になる

この構造の中では、意思決定は常に次の条件を同時に満たす必要があります。

  • 海外拠点の現地要件
  • 日本本社の統制・ルール
  • 海外ITパートナが準拠する契約・やり方

海外現地企業は、そういったことを考える必要はありません。海外文化で普段から仕事をしている海外現地企業と海外ITパートナとの取り組みになるからです。

しかし、日系企業の海外拠点は違います。彼らのITプロジェクトは、単純な現地業務の最適化ではなく「調整の積み重ね」がプロジェクトの本質になります。


日系企業の海外拠点における「ハーフ日本・ハーフ海外」という文化構造

そして、この構造的な問題は、単なる企業のガバナンスの問題ではなく、文化の問題であることが、海外拠点のITプロジェクトをより難しくしていると考えています。

なぜなら日本企業の海外拠点は、海外拠点にある海外人材が主に働く「海外文化の組織」ではなく、日本企業の中で変形したハイブリッド組織になっているからです。

海外拠点人材は50%海外×50%日本に変化する理由

海外拠点の人材は本来、現地文化をベースにしていますが、日本企業で働くことで徐々に以下の影響を受けています。

  • 稟議・承認プロセスへの適応
  • 報告・調整文化の習得(ホウレンソウ文化の徹底など)
  • 日本本社との関係性を前提とした意思決定

また採用段階でも、日本への留学経験のある人材の採用など、日本企業に適応しやすい人材が集まりやすい傾向があります。

  • その結果、人材文化は「海外100%」ではなく、時間とともに「50%海外×50%日本」へ変化していきます。

日本型に慣れるにつれ、海外型から離れていく

日本型の業務運営に慣れていくと、純粋な海外現地企業にいれば身に着けたであろう企業文化とは異なる文化を身に付けていくことになります。

  • 曖昧な組織間の役割分担
  • 誰もリスクを取らない意思決定
  • ITパートナに頼る姿勢

つまり、よく海外企業から「よく分からない」と言われる日本企業の特質を、日本企業の海外拠点も身に付けて行くことになるのです。

しかし、元は、幼少の頃から、海外現地で育った人達ですから、結果として、

ハーフ日本・ハーフ海外

という人材・企業文化が醸成されることになるのです。


日系企業の海外拠点と日本本社の間で起きるマネジメントギャップ

ここからは、ハーフ日本・ハーフ海外である海外拠点が、どのような軋轢に直面するかについてお話していきたいと思います。

日本本社は100%日本文化のマネジメントスタイルで動く

日本本社は以下を重視します。

  • 全体最適
  • リスク回避
  • 説明責任
  • 稟議による合意形成

そのため、意思決定は慎重かつ段階的ですし、そのための情報共有(ホウレンソウ)も非常に重要です。

50%海外の海外拠点と、100%日本の日本本社との文化ギャップ

一方で、海外は50%は日本型ですが、残り50%は海外型ですから、100%日本の日本本社とは、コミュニケーションにおいて、ギャップが生じます。

ギャップ例

視点日本本社海外拠点
リスクの共有問題になりそうなものは、かなり事前に報告すべし任された仕事は、自分の裁量でなんかすべき。細かい報告は不要
報告の粒度何が起きているのかイメージできるよう、細かい報告が欲しい海外拠点のプロジェクトなのだから、日本本社が詳細を知る必要は無い

これらは、皆さんが、海外と日本との文化ギャップとしてよく聞くことと同じだと思います。こういったことが、日本企業の海外拠点のITプロジェクトでも起きます。

普段の日常業務は、すでに確立された流れがありますが、大型のITプロジェクトは滅多になく、いちから進め方を検討しなくてはいけないことも多いです。そのため、こういったギャップが出がちです。


日系企業の海外拠点ITプロジェクトにおけるITベンダーとの問題構造

次にもう一つの重要な構造が、ITベンダーとの関係です。ここでも、ハーフ日本・ハーフ海外という海外拠点の特性が、難しさの原因になっています。

ITパートナーは100%海外文化の契約主義で動く

海外ITパートナは、当然ですが、海外のルールで動きます。

  • 契約=責任範囲
  • スコープ外=対応しない
  • 助言=契約に含まれる場合のみ
  • 非常に明確な線引き構造です

日本企業の海外拠点は、日本企業文化の影響で広い協力を期待する

一方で海外拠点は、日本企業文化の影響を受けているため、多くの日本企業が期待するように、

  • 相談すれば支援が広がる
  • 状況に応じて柔軟に対応される
  • 契約外でも一定の助言がある

といった期待を持ちやすくなります。

実際、海外拠点といえど、日本企業内の組織ですから、ITパートナに大きく頼らないと、プロジェクトができないような組織・人材配置になっていることが多いという要因も大きいです。

ITパートナと海外拠点の間で発生するすれ違い

その結果、前提がズレます。

視点ITパートナ海外拠点
契約絶対境界柔軟解釈
支援スコープ限定広範期待
助言原則対象外必須要素

海外ITパートナは、日本のITパートナのように、契約以上の手厚いケアはしてくれません。一方で、日本企業の海外拠点には、自力で担当タスクを進められる力量はありませんので、自ずと、トラブルになりやすくなります。


海外拠点ITプロジェクトの現実的な成功パターン

残念ながら、今のところ、「単一の正解」というものは、まだ見いだせていないように考えます。
現時点では、企業の構造に応じて、対処しているように見受けます。ただし、日本型と海外型をうまく融和できているケースは、まだ無いように思います。

明確な万能解は存在しない

文化・契約・統制のすべてを同時に満たすモデルは存在しないため、現実はトレードオフです。

パターン①:日本側ITパートナーに統一するモデル

前提となる企業ガバナンス:日本本社の中央集権体制が確立している

この場合は、海外現地のITパートナを利用せずに、日本のITパートナが海外に出向いて、プロジェクトを進めるケースが成功しているように見えます。

  • 日本本社+日本ITパートナが、直接プロジェクトメンバとして、海外拠点に関与
  • 日本本社が決めたグローバル標準の展開が容易
  • 日本企業の海外拠点には、知見は蓄積されない(それで構わないという考え方)

パターン②:海外ITパートナー+日本人常駐モデル

前提となる企業ガバナンス:日本本社のガバナンスは強くなく、分権型のグローバル統制

この場合は、日本本社がお仕着せの業務プロセスやシステムを提供しても、各拠点の反発も多く、うまく行かないことが多いです。そのため、各拠点に基本的には任せるものの、PMOや重要なチームのキーポジションなどで、日本本社の人材が、海外拠点に常駐するケースが多いように見えます。

  • 海外の商慣習がよく分かっている海外ITパートナを活用
  • 日本本社の意向・グローバル標準との整合を取るために、日本本社から日本人を派遣・現地常駐
  • 海外拠点にも、知見を持つ人材が必要 ★この要件が難しく、このパターンのプロジェクトは、他の2つに比べると、難航することが多い。

パターン③:強い現地主導モデル

前提となる企業ガバナンス:海外拠点の独立性が非常に高い。CEOは海外出身だが、日本本社の役員クラスでもある

この場合は、日本企業と言っても、実質的に、海外企業といって良いような企業文化であることが多いです。そのため、純粋な海外現地企業×海外ITパートナの組合せが、普通に機能します。このパターンは、比較的成功しているように思います。

  • 海外ITパートナが、メインパートナとしてプロジェクト推進 ※日本のITパートナは登場しない
  • 日本本社の関与は、最低限
  • 海外拠点にも、知見を持つ人材が必要

このように、唯一の成功の形はありません。企業特性に合わせて、ベストと思われる形を考え出すしかありません。


海外拠点のITプロジェクトで苦労している日本企業は多いように思います。その際、日本本社と海外拠点の間のコミュニケーション齟齬は把握できていることが多いですが、海外拠点と海外ITパートナとの間の齟齬に気づけているケースは少ないように思います。

ぜひ、この点にも気を付けて見るようにして頂ければと思います。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。ご意見・ご感想を頂けますと幸いです。

ITプロジェクト研究会