ITプロジェクトのコストは、なぜ膨らむのか?|追加予算が繰り返される理由

ITプロジェクトでは、当初予算から追加費用が発生することは珍しくありません。
その際、多くの場合は「見積が甘かった」「プロジェクト管理が不十分だった」といった個別要因に焦点が当てられます。しかし、多くのプロジェクトを観察すると、予算増加は必ずしも個人の能力や努力不足だけで説明できるものではありません。
むしろ、プロジェクトマネージャ、マネジメント、ITパートナ、そして業務部門の役割や責任の違いによって、予算が増加しやすい方向へ意思決定が誘導される構造が存在します。
本記事では、ITプロジェクトのコストが膨らむ背景を「構造」という観点から整理し、その改善の方向性について考察します。
ITプロジェクトでは課題が常に発生するため、追加予算の口実が生まれ続ける
ITプロジェクトの特徴は、開始時点で全ての課題を予測できないことです。プロジェクトが進行すると、新たな課題や前提条件の変化が必ず発生します。
例えば、
- ビジネス環境の変化による、業務要件の内容/優先順位の変化
- 並行して走る別プロジェクトによる、外部システムの仕様変更
- 採用したサードパーティ製品の不具合
- 関係者が多数に上ることによる、検討会の調整工数増加
- 時代の要請による、セキュリティ要件の追加
などです。
これらは、どれも説明として成立しやすく、マネジメントも納得しやすいです。このように絶え間なく、出現するコスト増加要因に対して、実際のコスト増をどのように抑えていくかは至難の業です。
ITプロジェクトの予算が抑えにくい構造的な理由とは
例えば、プロジェクトマネージャは失敗を避けるために安全側の判断を行います。マネジメントは現場の詳細を把握できないため、説明を信頼して意思決定を行います。ITパートナは契約や収益構造の観点から、追加対応に工数を投入することが合理的になります。
それぞれの判断は間違っていません。しかし、それらが組み合わさると、結果としてコストを抑制する方向に働く力が弱くなります。
表面的には「予算超過」に見えても、その背景には意思決定構造そのものの問題が潜んでいるのです。
関係者ごとの基本的な関心事
| 立場 | 主な関心事 |
| PM | 納期・品質・炎上回避 |
| ITパートナ | 契約履行・収益確保 |
| 業務部門 | 業務効果・将来の費用配賦 |
| マネジメント | プロジェクト成功・説明責任 |
このように見ると、実は「コスト抑制」を第一優先にしている主体が存在しないことが分かります。コストはもちろん大事だとは理解しつつも、プロジェクト進行中は、プロジェクトをまずは完了させることが第一関心事になりがちです。
関係者❶ プロジェクトマネージャの評価はコスト削減ではなく、納期・品質・炎上回避
PMの役割は「コスト削減担当」ではなく「プロジェクト成功責任者」です。
この役割定義が、予算増加を生み出す重要な背景となっています。
PMの評価軸
| 項目 | 重要度 |
| 納期達成 | 高 |
| 品質確保 | 高 |
| 障害回避 | 高 |
| コスト削減 | 中〜低 |
そのため、コストを削るよりも失敗を回避する判断が優先されやすくなります。
PMの現実思考

足りなくて炎上するくらいなら、色々と面倒な説明をする必要があっても、予算追加に動いた方が安全
マネジメントが期待しているほどには、PMはコスト削減にこだわっていないことが多いように思います。逆に、「マネジメントを説得して、お金を取ってくることが自分の仕事だ」と思っているPMも多いように見受けます。
関係者❷ ITパートナは、コスト削減よりも工数増加を優先しやすい
ITパートナもまた、合理的に行動しています。ITパートナも、利益を稼ぐビジネスとして、プロジェクト支援を行っているからです。
そのため、合理的な判断の結果、コスト削減よりも、工数増加が合理的な選択になる場合があります。
ベンダ視点での比較例
| 行動 | ITパートナ視点 |
| 【コスト削減】プロジェクト全体のコスト削減に協力して、自社作業の費用(=工数)を削減する | 費用削減(=工数減)で作業リスクが高まることに加えて、利益が減少する |
| 【予算の追加】費用用工数の増加に合わせて、ユーザ企業側に予算を追加して貰う | 工数増で作業リスクが減るだけでなく、ITパートナとしての売上も増加する |
もちろん、すべてのITパートナがそうではありませんが、構造としては、コスト抑制はインセンティブが弱い場合があります。
関係者❸ マネジメントは、ITプロジェクトの詳細を把握できない
一方で、上位マネジメントが、プロジェクトの詳細を把握することは現実的ではありません。
実態として判断材料は、以下のようなものに限定されます。
- 進捗報告資料
- 課題管理表
- 予算申請資料
マネジメントの実態

「内容が妥当かどうか」ではなく、「説明として納得できるか」で判断している
そのため、意思決定は、実態よりも、説明の整合性に依存するようになります。
結果として「追加予算が通りやすい構造」になる
ここまでの内容を整理すると、
- PMは安全側に判断する
- ITパートナは追加工数への動機を持ちやすい
- マネジメントは詳細を把握できない
という状態になります。
つまり、関係者の合理的な行動が偶然にも同じ方向を向いているのです。その結果、
「追加予算は申請すれば、通る」
という構造が生まれ、追加申請の繰り返しが始まります。

構造への対策は、業務部門の関りにある
予算統制の本質はコスト削減ではなく、意思決定構造の再設計です。
業務部門が、一番の利害関係者
本来、システム導入は、業務部門の業務改善のために行うものです。また、プロジェクトに掛かった費用は、カットオーバー後に費用配賦という形で、業務部門の負担として課されます。
つまり、業務部門は、以下の両方に利害関係を持っています。
- システム導入による業務効果
- システム導入によって生じる、減価償却費や運用保守費
別の言い方をすると、プロジェクト費用の追加によって、一番影響を受けるのは、業務部門になるのです。しかも、その費用は、一過性のものではなく、長期的な固定費用負担になります。
プロジェクト期間中は、業務部門の関与は小さい
しかし、一般的に、プロジェクト期間中はIT部門主導でコストの話を進めることが多く、業務部門はあまり関与しません。
そのため、費用追加で、プロジェクト費用が拡大して行って、将来の業務部門の負担が大きくなっていても、業務部門がそれを認識することは、ほとんど無いように思います。
実際には、業務部門も、その構図をあまり理解していないこともあって、「それがないと、業務ができなくなる」という声を上げて、仕様変更を積極的に申請して、費用拡大に加担しているケースも多いくらいです。
業務部門を、コストに関する意思決定プロセスに入れる
前述のように、業務部門だけが、プロジェクト費用の課題について、長期的な負担を強いられる存在です。しかし、業務部門は、それに気が付いていないことが多く。プロジェクト期間中は、主に、IT部門だけで、費用について話を進めることが、ほとんどです。
解決策とは、それを改めて、業務部門を、費用対効果の観点の意思決定に必ず関与させるということになります。
立場ごとの判断軸
| 立場 | 判断基準 |
| PM | カットオーバー |
| IT部門 | システムの完成 |
| ITパートナ | 要求への対応 |
| 業務部門 | 費用対効果 |
追加予算は、IT都合ではなく、事業投資の意思決定
価値のある投資であれば、業務部門も追加予算を指示します。一方で、IT側が原因の場合は、より厳しい議論が行われるようになります。
多くのプロジェクトでは、こういった苛烈な議論を避けるため、プロジェクト期間中はIT部門主導で進むことが多いようにも考えますが、それは健全ではありません。
逆に、業務部門を積極的に巻き込むことで、将来の業務部門への費用配賦を抑えるために、仕様変更を抑制したり、検討会がスムーズに進むように進んでエースメンバをアサインしてくれるようになります。
そもそも、システム導入は、業務部門のために行うものです。また、システム導入に掛かる費用も、将来的には、費用配賦として、業務部門が負担するものです。それにも関わらず、費用の話に、業務部門がほとんど関与していないプロジェクトが非常に多いように見受けます。
プロジェクトマネージャを含め、IT部門やITパートナは、実は、コスト抑制の優先順位は、比較的低くなっていることが多いです。業務部門に積極的に関与して貰うことが、追加予算の繰り返しから抜け出るために重要だと考えます。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。ご意見・ご感想を頂けますと幸いです。
ITプロジェクト研究会



