プロジェクト目標がしっかり理解されていれば、プロジェクトの難易度は下がる
itpjstudy
以前の回で、「錦の御旗（にしきのみはた）」は、十分なシステム導入効果を得るために大変重要であることをお話しました。
その際、錦の御旗は、システム導入の難易度を下げることにもつながるという話を前振りさせて頂きました。
今回は、どうして錦の御旗が、システム導入難易度を下げることにつながるかについて、説明していきます。
Must-Read Insights
「錦の御旗」の役割
下記のプロジェクト目標（＝ 錦の御旗）は、これまで何回か取り上げているお馴染みのものです。
錦の御旗は、これだけでは十分に機能せず、システム導入効果を大きく得ようと思うなら、深掘りしていくことが重要だとお話しました。今回は、別の側面として、システム導入の難易度を下げるというお話です。
錦の御旗の役割
- 十分なシステム導入効果を得る
- システム導入の難易度を下げる
まずは、錦の御旗の効力が十分に働いていないケースを見て行きましょう。
「錦の御旗」の効力が働かないケース
プロジェクトチームのなかで、喧々諤々の議論がなされ、錦の御旗をブレイクダウンされた改革施策も検討した。それでも、十分に錦の御旗の効力が働かない場合があります。
多くの場合、プロジェクトチームの外に内容が浸透しておらず、改革の動きが職制（会社の指揮命令系統）に伝わっていません。
実際の業務を遂行するのは、現場の部・課の人たちです。彼らに浸透しないと、どれだけ高い志を立てても、実現するのは難しくなります。
逆に、大きな改革は、現行業務の遂行を難しくしますので、当然反発心の方が大きくなってしまいます。
改革の志は立派だと思うけど、実際に業務をする立場としては、現場が混乱してしまうのが絶対に避けたい。
だって、現場が混乱したら、責任を取るのは、我々だから...
結果として、標準化された業務プロセスに加えて、特定の場合に現行踏襲も可能にするための追加開発が多くなってしまうことが多いです。
そうすると、システム開発やテストの難易度も上がってきます。
では、どうするか。そう、職制を活用するのです。
職制に基づく動きは、効果絶大
職制を活用すると、なぜ良いのか。理由は、職制は、会社が業務をするうえでの毎日利用している指揮命令系統だからです。
プロジェクトメンバが、横からお願いしても効果は薄いですが、直属の役員・部長からの指示であれば、効果絶大です。
実際、多くの改革は、現場の混乱や手間、取引先との調整などを伴うことが多く、一時的には、現行業務にマイナスの影響を及ぼすことがあります。
責任感のある人であればあるほど、改革に難色を示しやすい可能性があります。
そういった人たちに、「これは、業務命令だ。何かあっても、私（部長）が責任を取る。安心して進めて欲しい」と言われれば、大きな改革であっても受け入れやすくなります。
そうやって、現場の反発が小さくなると、システム導入の難易度も抑えられます。
とは言っても、簡単に職制を活用できる訳ではありません。
役員や部長の方々は、基本的に忙しいです。また、残念ながら、全社プロジェクトであっても、「必要があったら、相談して欲しい」というスタンスの役員や部長が多く、通常は推進力に欠けることが多いからです。
職制を活用するために必要なこと
何が必要か。地味ですが、しっかり具体的に検討し、幅広い関係者と議論を尽くすことです。
全社的に「この改革、業務プロセスやルールの変更が必要である」ということが納得されることが大事です。
極めて業務的な活動になります。一方、IT主導のプロジェクトの場合、この辺が十分に行われずに、システム機能が膨れ上がってしまい、非常に難しいプロジェクト運営を強いられることが多いです。
とは言いながら、「業務変更は現場の混乱が起きる。やっぱり、抵抗があるなあ...」という声もあるかと思います。
業務主導で職制で考えることの例を、少し紹介します。
得意先ごとに異なる納品仕様の標準化
お客様要求の納品仕様を変えると、取引を止められてしまうかもしれません！
確かに、お客様によっては、嫌な顔ををされるかもなあ。
ただ、標準化によって、納品リードタイムや納入コストの削減など、お客様にもメリットがあるから、意外に受け入れられる気もする。
資料をまとめて、各営業担当から、それぞれのお客様に打診して貰おう。難しいお客様については、私も一緒に訪問するよ。
複雑な販売リベートの標準化
リベートを変えると言ったら、小売店が他社の商品に乗り換えてしまうかもしれません！
うちは商品力があるから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。
もし、そんな小売店さんがいたら、標準リベートにするものの、金額か率を大きくして、納得して貰うことにしよう。
標準化によって、お金が結構浮くと思うから、それくらい負担できると思うよ。
こんな風に、職制として、役員・部長レベルが関わることで、色々な打ち手の可能性が出てきます。これらは、IT部門からはなかなか出てこないアイデアです。
そういった意味でも、業務のコミットメントにより、錦の御旗の深掘りを行うことは、非常に重要なのです。
最近のDXブームが来る前から、業務システムの導入においては、経営者の参画・コミットメントが非常に重要だということが言われてきました。ただ、実際に十分な関りができているプロジェクトは、いまだに少ないように感じます。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。ご意見・ご感想を頂けますと幸いです。
ITプロジェクト研究会
