過去の改革プロジェクトと同じように、ERP再構築は効果を出し続けられるのか

近年の更なるIT技術の進展で、AIやクラウドなど、ユーザ企業のIT投資領域は非常に広がってきています。一方、ERP導入や再構築にかかる費用も、数十年前と同様に大変大きな割合を占めています。
しかし、ERP導入においては、かかる費用に対して、数十年前に初回導入したときほどには、効果が得られていないケースも多くあるように見受けます。今回は、このような状況下で、どのようにERP導入・再構築に向き合えば良いかについてお話します。
IT技術の革新に応じて、効果を生み出す領域が変わってきている
まずは、1990年代後半以降のシステム導入におけるキーワードの変遷を振り返りたいと思います。

ERPの歴史は古く、30年以上前から、各ユーザ企業の基幹業務システムとして導入が進んできました。その後、そのERPに蓄積されたデータを分析するBIツールの活用も進みました。また、周辺の業務システムとして、EC/eコマース、CRM、SFAなどの導入が拡大し、それらシステムとERPとのデータ連携も進んできています。
そうしたなか、以下のようなことが言えると考えます。
- 新しい技術・ツールは、初回利用・導入による効果が大きく、その時代その時代で拡大が進む
- 一方、ERPは、基幹業務システム・重要データの諸元として、継続的に重要
そのため、ERPの導入や再構築にも、やむを得ず必要な経費として、継続的に一定の投資が行われてきています。
ERP再構築の効果は、下がっている
しかし、前述のように、多くのユーザ企業においては、ERP再構築の効果は、期待しているほどには大きくないことが多いように見受けます。
ユーザ企業の内発的な動機ではない

多くのERPにおいては、提供バージョンごとに保守期限があり、その保守期限までに新しいバージョンで再構築することが求められます。そのため、ユーザ企業は、否応なくERPを再構築するしかないのですが、初回導入時ほどの効果がないことがほとんどです。
なぜか。
- 大きな業務プロセス・ルールの改革は、ERPの初回導入時に終わっている
- ERP保守期限切れがきっかけであり、ユーザ企業のの内発的動機ではないため、改革推進力に乏しい
これは、既存のERPから別のERPに乗り換える場合でも、同じように思います。別のERPにとっては新規導入ですが、たいていの場合、きっかけは既存ERPの保守サービス切れのように見受けます。
ERPは、組織・業務改革のための唯一の選択肢ではなくなった
1990年代

ERP導入が本格化した1990年代では、ERPは画期的な仕組みでした。それまで企業に散在していた業務データを一か所で管理できるようになったからです。
そのおかげで、多くのユーザ企業で、業務の見える化が進み、業務改革が進みました。BPR(Business Process Reengineering)という言葉もよく言われるようになりました。
現在

現在は、状況が変わってきています。ERPは、依然重要なシステムですが、ERP以外の業務システムの幅も広がってきました。ERPではカバーされない業務・データを扱うシステムが併存するようになったのです。
それに伴い、それら複数のシステムに保管されているデータを吸い上げて、統合管理する仕組みも実用化が進んでいます。それら技術を使えば、複数の異なるERPのデータを統合させて見ることも可能です。
つまり、例えば、グローバルなデータドリブン経営の実現のために、グローバル・ワンでERPを導入する必要もないのです。
このように、以前は一旦ひとつのERPにデータを集めることが必要だった時代から、ERPは限定された業務・データだけを扱えば良くなったということも、ERP導入・再構築の効果を限定的なものにしている原因だと考えます。
しかし、そんななかでも、ERP再構築で大きな効果を出しているユーザ企業もあります。後段では、その辺をお話していきたいと思います。

ERP再構築のタイミングを、業務プロセス改善レベルを超えた、組織・業務改革の契機と捉える
もう30年以上に渡ってERPを利用している企業も多いですが、そういった企業は、何回かERPの再構築を行っています。
組織・業務改革を伴わない再構築に留めている企業もありますが、ERP再構築のタイミングを活用して、本格的組織・業務改革を進める企業も少なくありません。
再構築のタイミングで行う組織・業務改革の例

一般的には、段階的により難易度の高い取り組みにチャレンジするケースが多いです。上記の例では、業務標準化の範囲を、事業部ごと ➡ 日本国内 ➡ グローバルへと拡大していっています。
なお、大事なことは、これらの企業も、いきなり難易度の高いプロジェクトにチャレンジできたわけではないということです。
過去のプロジェクトを通じて、改革の実績や経験を積み重ねてきたからこそ、大きな改革ができるようになっているのです。
過去のERP導入・再構築を通じて獲得した実績や経験

一足飛びに大きなチャレンジに挑むのは危険
なお、ERPを活用しているものの、これまで十分な組織・業務改革を行えて来なかった企業が、あるタイミングで、大きな改革にチャレンジしようとする場合があります。

しかし、一般的に言って、かなり厳しいプロジェクト運営になります。
成功企業では、日本国内の業務標準化まで済んでいる前提で、満を持してグローバルの標準化に挑んでいますが、この企業の例では、日本国内の標準化もままならない状態で、いきなりグローバルの標準化にチャレンジしようとしているのです。
当然、プロジェクト運営は大変になりますし、場合によっては、システム導入自体が目的化して、組織・業務効果をほとんど上げられない結果となる可能性も高いです。
意気込みが、最悪の結果を招くこともある
そういった無理なチャンレンジをする企業の多くは、やる気は十分です。大きな予算を投下する覚悟も十分です。そのため、実力値の足りないところを、ITパートナの要員アサインで補完しようとします。
しかし、それが問題です。プロジェクトの規模として、ユーザ企業の力量を超えていますので、プロジェクトは難航し、当初の予算を大幅に超えていくことも多いです。また、トラブル下では、システム導入自体が目的化してしまい、本来の改革目的がおざなりになることもよくあります。
ユーザ企業の力量を超えたプロジェクト規模になってしまう例

では、どうするか。答えは簡単です。
身の丈に合うレベルに、プロジェクト規模を抑える
身の丈に合ったプロジェクト

数十年の遅れを取り戻したいという気持ちは理解できます。しかし、実力値以上のプロジェクトは成功しません。
遠回りに思えても、踏むべきステップを踏むことが重要です。どうしても、チャレンジしたい場合は、経営層から業務部門トップまで交えて、どれだけ難しいことにチャレンジしようとしているのか、勝ち見込みがあるのかを十分に見極めることが必要です。
前述したように、ERP導入・再構築で、費用に見合った効果を出すことは、非常に難しくなってきました。そんななかでも、いくつかの企業は大きな成果を上げられています。しかし、簡単ではありません。
実は、多くの企業で、高騰するERP再構築費用を正当化するための道具として、大きな組織・業務改革が掲げられているケースがあるように感じます。そういった名目だけの改革は絶対に成功しません。結果として、ERP導入・再構築の効果が感じられなくなっているケースが多くなっているようにも考えます。
効果が見込めないところに、大きな投資をする必要はありません。冷静に現実を見つめ、身の丈に合ったプロジェクトに仕立てることが重要です。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。ご意見・ご感想を頂けますと幸いです。
ITプロジェクト研究会





