会社組織が変わるくらいでなければ、システム導入の効果は小さい

昨今のDX(デジタルトランスフォーメーション)ブームのなか、社運を賭けて、大きなITプロジェクトを進めている企業は多いと思います。

しかし、大きなプロジェクトになればなるほど、難易度は上がります。難易度が上がると、まずはプロジェクトを完了させることが目的になってきます。結果、手段であったプロジェクト完了が目的化してしまい、本来の目的であったDXの実現は、中御半端なものになってしまった例もよく見かけます。

難易度が高いプロジェクトほど、お金もかかります。つまり、大きなお金を掛けた割に、効果があまり出ないという悲しい結果になるのです。


かっこうよいプロジェクト目標の罠

下記に、よくあるプロジェクトの目標を記載しています。

会社の誰もが、「それが実現できたら良いね」と思う、目標だと思います。取締役会に稟議を上げれば「ぜひ進めよう!」となるでしょう。

実は、そこに罠が潜んでいます。

やらないという選択肢がない

上記のような目標を提案されて、やらないという判断をする経営者はなかなかいないのではないでしょうか。その背景には「DXをやらなければ、時代に置いて行かれる」というプレッシャーがあるように思います。

「データドリブン経営」は、今どきは、どこの会社も目指している。データに基づく経営をやらない理由はない。

もちろん、やるべきだ!

IT業界は、時代の流れを作るキーワード作りが得意です。コンセプトは理解しているが、具体的な中身はよくは理解していないキーワードが、たくさんあるのではないでしょうか。

「データドリブン経営」も、そんなキーワードのひとつだと思います。企業の経営者は、細かいところまで見ませんので、驚くことに、こんなキーワードだけで、役員会議の決裁が通ってしまう企業も多いのです。

つい、IT部門任せになってしまう

DXブーム以前から、IT部門だけでなく業務部門の関与が重要だということは、ずっと言われてきました。業務効果を生み出すためには、業務部門側の視点が不可欠だからです。

でも、まだまだIT部門任せになっている企業は多いように感じます。

業務部門の関与が重要なのは、理解している。判断が必要であれば、遠慮なく相談して欲しい。でも、ITの細かいところは分からないよ。

あと、ITチームが選んだソリューションは、世の中で一番採用されている。それを入れれば、やりたいことができるはず、って聞いてるよ。

いくらユーザフレンドリーになったとは言え、業務部門の人達にとって、ITはまだまだ難しい領域です。業務部門のマネジメント層にとっては、なおさらです。

結果として、プロジェクト目標を設定する際に、業務部門側の関りが十分でなく、本来深掘りしておくべき導入効果や導入の姿が曖昧なまま、プロジェクトを開始してしまうケースが多くあるように見受けられます。

では、どういう視点を持っていれば良いのか。後段は、その辺りを深掘りしていきます。


組織やルールが変わらないと、損益に貢献するような効果は出ない

どの程度の変化があれば、良いのか。答えは、誰の目にも分かるような大きな変化があることです。小さな変化ではありません。大きな変化です。

  • 組織が変わる
  • 会議のあり方が変わる
  • ルールが変わる

などといったことが起き、「それは、すごい」と皆が実感できることが重要です。

例① 全社業務標準化による効率化

「ERP導入による業務標準化で〇〇%効率化」といったプロジェクト目標は、今でもよく目にします。ただ、目標設定したレベルを実現できているかというと、実現できていないプロジェクトもたくさんあるように思います。

下記は、20%の効率化に成功した例ですが、もとの5名をそのまま残していました。何か新しい仕事に従事させようと考えていましたが、準備が整わないうちに、皆、せっかく生まれた20%を何かで埋めてしまっています。

永続的な効果創出に失敗したケース

基本的に、働いている人は真面目です。生産性を高める方向ではなくても、空いている時間があると、良かれと思って、何か仕事を生み出してしまうのです。

では、どうするか。

SSC(シェアードサービスセンタ)などに組織を再編成して、20%人員削減された組織にしてしまうのです。そうすれば、仕事が勝手に増えることもありません。

永続的な効果創出に成功したケース

本当に20%削減できていなくても、机上では、何とでも言えます。報告書では「20%達成」と言っているが、実態は20%には全然足りないことだってあります。でも、それを検証するのは困難です。

組織を変えることは、大変なことです。しかし、その大変なことを最終目標とすることで、本当に20%削減した体制で業務が回るのかを真剣に考えます。その真剣さにより、効率化効果の刈り取りを確実にすることができるのです。

例② グローバルサプライチェーンの確立

次に「SCPツールの導入による、グローバルサプライチェーンの確立」を例にとってみたいと思います。

SCPツール導入前は、下記のような状態が典型的な姿だと思います。

一応、需給調整の会議で、生産・販売・在庫のデータをエクセルで集計したものを見ながら、会議をしています。ただ、データは参考情報でしかなく、足並みの揃ったアクションは打ててないことが多いです。

営業部門

今回の営業キャンペーンは、すごく力を入れている。商品の売り切れで、販売機会を失ったら嫌だ。

ここは、強気に前年度対比50%増で、生産側に製造をお願いしよう!

生産部門

営業の人達は、いつも多めに言って来て、たいてい売れ残る。

まあ、営業は50%と言ってるけど、生産現場には30%と言っておこう。

今回は、成功例から見て行きましょう。

SCP導入によるビジネス変革に成功したケース

成功している事例では、ほとんどの場合、経営層が深く関与して、複数の部門にまたがる需給調整会議のあり方に踏み込んでいます。その中で、前述のようなすれ違いをどのようにすれば、解消できるのかを喧々諤々議論します。

ITメンバでは対応できない、極めて業務的な活動です。

SCP導入によるビジネス変革に失敗したケース

逆に、業務側の踏み込んだ活動がなく、単純なツール導入に留まるケースでは、SCPツールを活用するための業務側の構えができていないため、失敗に終わることが多いです。最悪の場合、従来のエクセル運用に逆戻りする場合もあります。

このように、システム導入効果を得ようと思うと、受益者である業務側に「その変化は、すごい」と思えるような変化がないといけません。

そういった変化を起こそうとすると、普通は、マネジメント層も巻き込んだ、大きな業務メンバ側の取組みが必要になります。つまり、そういった取り組みが行われていないプロジェクトでは、導入効果は期待できません。


冒頭で、大きなシステム導入効果を得ようとして、プロジェクトの難易度が上がり、プロジェクトを完了させることが目的となってしまうお話をしました。そういうプロジェクトでは、本来あるべき、組織論やルールの話がおざなりになってしまうことが多いです。

しかし、そういった組織論やルールに踏み込まないと、大きな導入効果は得られません。また、そういった活動をしていれば、難しい判断も必要になり、必ずマネジメント層の耳にも入ってきます。つまり、マネジメントの耳に、そんな話が入ってきていないとすると、あまり良くない状況だということです。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。ご意見・ご感想を頂けますと幸いです。

ITプロジェクト研究会