「DX基盤作り」というバズワード/Buzzwordには、罠が潜んでいるかもしれない
itpjstudy
昨今のDX（デジタルトランスフォーメーション）の高まりで、どのユーザ企業も「DXを進めなければいけない」という想いを強くしています。DXを進めること自体は、大変意味のあることです。しかし、あまり中身を見ずに、”DX”と付けば、何でも許されるような風潮も少なからずあるように感じます。
今回は、DXという言葉が、かえって意味のあるシステム投資を阻害しているケースについて、お話していきたいと思います。
「DX基盤ができた」という言葉に惑わされない
まず、大事なことは、DX基盤ができれば、DXができる訳ではありません。
DX基盤は、あくまでDXをするための準備ができただけです。そこから、実際にDXを推進していかないと、DXによる効果は生まれません。
しかし、「DX基盤が出来たのだから、大きなことを達成できた」と思うマネジメントが意外に多いようが気がします。そのため、以下のようなやり取りで、お茶を濁しているプロジェクトがたくさんあるように思います。
リーダ
大変苦労して、ようやくプロジェクトが完了しました。追加予算もたくさん頂きましたが、お陰様で、将来のDXに向けた基盤を作ることができました。
当初想定を大幅に超える費用で、財務上も大きな影響があったが、DX基盤ができたことは、お金には替えがたい。よくやった。
もちろん、DX基盤が作成されることは、大変意味のあることです。しかし、何が、どの程度できたのかについて、あまり深掘りされないままになっていることが多いようです。
「DX基盤ができた」と聞いて、想像すること
以下は、グローバルプロジェクトが完了したときに、社長報告で説明する内容のイメージ例です。色々とすごそうな言葉の後に、DX基盤ができたと書いてあります。
おそらく、素直に読むと、「以下のようなことが実現できたのだろう」と期待してしまいます。もし、そうだとすると、大変大きなことを成し遂げたと言えると思います。
しかし、本当にそうなのかは、先ほどの報告を見ただけでは分かりません。
ありえる、悪い実態
あえて悪い例を出しますが、もしかすると、以下のような実態かもしれません。本当に、このような状況だとすると、報告はウソではないが、実態はまったく良くない状況だと言えます。
「DX基盤」がクローズアップされるときに、起きていがちなこと
「DX基盤」という成果は、プロジェクトの本来の目的である組織改革や業務改革が十分な成果を上げているときは、そこまで強調されません。あくまで、副次的効果として「DX基盤構築”も”できた」という扱いです。
しかし、プロジェクトが難航して、本来やりたかった改革が進まなくなると「DX基盤」というバズワードに頼りたくなる傾向があるように思います。
プロジェクトが難航すると、費用も大きくなります。そのため、追加予算の承認を得るためにも、「何か大きなことを実現する」ということを言わなくてはならなくなり、ますます「DX基盤」というワードに頼ることになるのです。
逆に言うと、プロジェクトの中間報告会などで、組織改革・業務改革の効果の説明があまり出なくなり、DX基盤が強調され始めると、危険な信号と捉えた方が良いと思います。
それでは、どのように防げば良いでしょうか。
改革の中身にこだわって、具体的に確認することが重要
まずは、プロジェクトの主たる目的であった組織改革・業務改革をきちんと進めること。そして、それを節目節目に、確認することが重要です。
改革の度合いを、節目節目で確認していく
プロジェクトは、進むにつれて、色々な問題が出てきます。そのため、その課題にどう対処していくのかが、マネジメント報告会でも、多くの時間を割いて語られるようになります。
そうすると、節目節目のマネジメント報告会でも、組織改革や業務改革がどの程度実現されるのか、当初目標のレベルに到達できるのかの確認が徐々におざなりになってきます。
それを防ぐために、意識をして、改革の度合い・進捗について取り上げることが重要です。PMOや業務チームは、日々の課題に忙殺されており、きちんと向き合えない可能性があります。
そのため、チェンジマネジメントチームのように、改革実現をミッションにするチームに任せることも有効です。また、プロジェクト外から、企画部や財務部から毎回確認するようにすることも、効果的な手段です。
「DX基盤作り」を詳細定義する
また、バズワードになってしまっている「DX基盤作り」を、きちんと定義することも大切です。
以下は、先ほどのプロジェクト報告会での「DX基盤作り」です。これを、例に取ってお話します。例えば、「共通コード体系を全拠点に適用」とは、どういう状態を指すのか、詳細化するのです。
曖昧な状態ではなく、何を、どの程度やるのかがきちんと分かるようにすることが大切です。そうすれば、状況に対する認識齟齬が生まれるのを防ぐことができますし、プロジェクトの現場メンバも行動指針も明確になります。
将来のDXのための基盤を作ることは、とても大切なことです。まだDX効果が出ていなくても、もし優れたDX基盤が出来たのであれば、それは大変意義のあることです。
しかし、「DX基盤ができた」ということだけが強調されるケースでは、多くの場合、プロジェクトはうまく行っていません。本来の目的である改革が進んでいない裏返しであることも多いです。ユーザ企業の皆さんには、本当の効果を獲得して頂きたく、今回は、あえて穿った見方で、少しお話をさせて頂きました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。ご意見・ご感想を頂けますと幸いです。
ITプロジェクト研究会
