費用対効果の「効果」は、後でちゃんと刈り取りできるものになっていますか

ITプロジェクトは、単にシステムを導入するだけのものではありません。ユーザ企業のビジネスや業務に貢献するために実施します。そのため、システム導入費用を超える効果を求めたくなるのが、投資判断をするユーザ企業のマネジメントの心境だと思います。
システム導入費用は、かなり大きなものです。そこで、多くのプロジェクトが予算承認を役員会議などで得る際には、非常に大きな導入効果があると説明させることが多いのではないでしょうか。しかし、本当に狙った効果が刈り取れているのか。きちんと確認できているユーザ企業は少ないように見えます。今回は、この辺りを深掘りしていきたいです。
定量効果と定性効果
まずは、費用対見積の基本的な考え方から始めたいと思います。以下は、費用対効果を大きく分類したものです。費用については、また別の回で取り上げますので、今回は、定量効果と定性効果について、お話します。

まずは、定量効果から見て行きましょう。

定量効果
定量効果は、具体的な金額として、ユーザ企業に貢献できるものです。売上拡大、コスト低減、利益率向上といった会社業績に直接寄与できます。そのため、定量効果が大きければ大きいほど、費用対効果は大きくなります。
定量効果の例
- 業務の効率化
- 在庫削減によるキャッシュ改善
- 請求・回収業務の早期化によるキャッシュフロー改善
- 売上機会の増加
- システム統合による費用削減
定量効果の見積方法
定量効果としてよく使われるのは、効率化です。IT活用で、より便利になりますので、工数削減は定量効果の大きな部分を占めます。
見積の方法は、まず、システム導入により、またシステム導入に併せて行う業務改革によって、実現できる取組みをリストアップします。その取り組みに対して、下記のように仮定を置いて、数字を積み上げていきます。
効率化(コスト削減)

しかし、工数削減といっても、限界があります。理論上は大きく削減できそうに見えても、実際に組織や人員配置に手を入れないと、大きな削減にはつながりません。
売上拡大
そのため、やはり売上拡大につながる効果を求めたいところです。見積の仕方は、工数削減と考え方は同じです。取り組みをリストアップして、数字を積み上げていきます。
ただ、効率化が、各業務プロセスに焦点を当てて、効果を求めるのに対して、売上拡大は、ビジネス機会に焦点を当てて考えていきます。

ここまでが、一般的な定量効果の見積りのやり方になります。しかし、システム導入後に、見積通りの効果を刈り取ろうと思うと、幾つか押さえておきたいポイントがあります。
押さえておくべき点① 効果の刈り取りには、業務側の働きが不可欠
ひとつは、効果を刈り取るためには、システム導入だけでなく、業務側の活動も必要になるということです。

こちらは、購買コスト削減の例ですが、システム導入により、見える化や管理は向上します。しかし、効果を刈り取るためには、業務側に、様々な改善を行ってもらう必要があります。
- システムを使えるようになるための業務変更
- システム導入で新たに出来るようになる業務の開始準備
このように、定量効果を見積もる際に、システム側の話だけでなく、業務側で実施すべきことを明確に定義しておくことが重要です。そして、効果の刈り取りのためには、プロジェクト期間中に、業務側でもしっかりと準備を進めておくことが不可欠となります。
押さえておくべき点② 効果の刈り取り開始は、随分先になる
もうひとつ、大事なポイントがあります。効果を試算してから、実際に効果を刈り取りするまでには、大きなタイムラグがあるということです。

多くのケースでは、プロジェクトを進めていくについて、色々な問題が発生します。そのため、プロジェクトを完遂させることが目的化してしまいます。結果、以下のような事態になりがちです。
- プロジェクトを終わらせたこと自体が、プロジェクトの成果となってしまう
- プロジェクト終了後に、システム導入効果が刈り取れたかの確認をしなくなる
- 逆に、「2-3年後は、どうなっているか分からない。効果は、それっぽく書いておけば大丈夫。フォローもされない可能性が高い」と考えて、効果試算を適当に済ませるケースもある
こうした事態は、ぜひ防ぎたいところです。企画部や財務部主導で、普段から数字にこだわって、ビジネスを進めているユーザ企業は、うまくやっているように思います。
一度、役員会などで約束した数字なのだから、システム運用開始後は、しっかりフォローすることが大事です。そうすれば、多少中身は変わるかもしれませんが、最大限の効果刈り取りにつながっていきます。
次に、定性効果について、見て行きましょう。

定性効果
下記に、よくある定性効果を挙げてみました。直接ユーザ企業の財務諸表の数字に貢献するものではありませんが、どれも重要なものです。
定性効果の例
- 部門間連携の強化
- 内部統制の強化
- 経営の可視化(データの一元化)
- ITリテラシーの底上げ将来のDXへの基盤作り
しかし、数字に表れないと、本当に実現できたのか、どの程度効果があったのか、よく見えてきません。
定性効果の数値化
そこで、定性効果であっても、なるべく数値化することが重要です。そうすることで、以下ができるようになります。
- 定性効果の刈り取りに向けてのアクションや進捗を明確化することができる
- 定性効果の刈り取り度合いを評価することができる
意外に忘れがちですが、定性効果だからといって、数値化できない訳ではないのです。財務諸表に直接貢献できないというだけで、多くの場合、なんらかの数値化はできるのです。
定性効果の数値目標イメージ

さて、上記の数値目標の例を見て頂くと、もうひとつ重要なことに気づかれると思います。
そう、定量効果の刈り取りと同じく、業務側の働きが重要になるということです。
業務側の働きの重要性
例えば、部門間ミーティングの立上げ・運用は、業務側のメンバが実施するタスクになります。内部統制の強化に向けた、決裁ルールやルートの標準化・簡素化も、同様です。
システムが提供するのは、あくまで、業務部門の人たちが仕事をするためのツールの提供にしかすぎません。そのツールをどう使って業務遂行するかは、業務部門の人たちが決めなければなりません。また、どれくらい効果が刈り取れるのか、効果を最大化するために何をすべきかも、業務側の役割になります。
システム導入プロジェクトにおいては、多く場合、決裁を取るのがIT部門側になっています。そのせいか、業務側にとって、非常に大事なはずの効果試算も、IT部門側主導で行われていることが多いように見受けます。
プロジェクトが始まる前の効果試算から、業務部門が深く入って行くことが重要だと考えます。
DXの高まりもあり、システム導入費用は年々大きくなってきています。そのため、システム導入効果も大きなものが期待されがちです。しかし、いったん予算が確保された後は、あまり振り返られていないように見受けられます。そこから、導入費用と導入効果の乖離が始まっていきます。
せっかく多額の費用をかけて、システム導入したのだから、効果は最大化したいところです。今回は、そのためには、業務側の関りが重要であることを説明しました。なお、効果に関しては「将来のDXの基盤作り」ということが頻繁に言われますが、ここには、大きな危険が潜んでいると考えています。これに関しては、別途掘り下げてお話します。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。ご意見・ご感想を頂けますと幸いです。
ITプロジェクト研究会



