システム導入効果を最大化するための、事業フェーズと将来性を踏まえたIT投資の考え方

大きなシステム導入では、プロジェクトの全完了まで数年かかることも珍しくありません。システム導入は、企業の今に対する投資ではなく、将来に向けての投資になります。一方で、経営資源は限られています。そこで、限られた経営資源を「どの事業の将来に配分するのか」は、非常に重要な経営判断となります。
しかし、現実には、事業の将来性よりも、それまでの売上実績(成功体験)や社内影響力に引きずられたIT投資が行われることも少なくありません。今回は、企業内の花形事業と成長事業の双方を見ながら、システム導入効果を最大化する方法についてお話します。

なぜシステム投資は、過去や現在の花形事業に偏りやすいのか
多くの企業で、現在の花形事業は、会社の屋台骨として長年業績を支えてきた存在です。その事業から歴代の社長や経営幹部が排出されていることも多く、社内での発言権も自然と大きくなります。また、事業に属する社員にも、会社を支えているエリートといった感覚を持ちやすいです。
その結果、事業の将来性とは別に、
「重要な事業なのだから、IT投資も厚くて当然」
という前提が暗黙のうちに共有され、投資規模が大きくなりがちです。


この事業は会社を支えてきたのだから、投資を削るのは現実的ではない!
かつての成功体験と組織的な力学が、投資判断を固定化する
花形事業は過去の成功体験と強く結びついています。そのため、事業自体が斜陽化して将来の成長見通しが見えない場合でも、「この事業の底力はすごい」「優秀な人材が必ず活路を見出す」と考えて、より簡素な業務プロセス・システムに転換していくことが遅れがちです。
また、長年使われてきたシステムほど、業務に深く組み込まれています。そのため、システム規模を縮小したときに影響が課題に見積もられがちです。結果として、投資規模の妥当性が議論されにくくなり、IT投資が維持・大きくなることが多いように見受けます。
現在の売上規模や社内影響力だけで判断することの危うさ
真摯に向き合う必要があることは、現在も花形である事業が、将来も成長するとは限らないという点です。市場環境の変化により、今後は徐々に縮小していくことが見込まれている事業も少なくありません。
| 視点 | 現在 | 将来 |
|---|---|---|
| 売上規模 | 大きい | 縮小傾向 |
| 市場成長性 | 高く見える | 低下 |
| IT投資回収 | 問われにくい | 困難 |
現在の売上や影響力だけを根拠に大規模なシステム投資を行うと、将来的に投資回収が難しくなるリスクが高まります。実際に、IT投資が、前年踏襲で積み上がり、目的や投資回収の前提が十分に問い直されないまま続いていくケースは多いです。

事業フェーズから考える、システム導入の本来の役割
システム導入効果を考えるうえでは、事業がどのフェーズにあるのかを整理することが欠かせません。事業フェーズによって、システムに求められる役割は大きく異なります。
事業ライフサイクルとIT投資の関係
| 事業フェーズ | 主な目的 | 投資の考え方 |
|---|---|---|
| 立ち上げ期 | 仮説検証・スピード | 小さく・変えやすく |
| 成長期 | 拡張・自動化 | ボトルネック解消 |
| 成熟期 | 効率化 | 費用対効果重視 |
| 縮小期 | 維持・縮小・撤退 | 延命しない |
発言権の大きさと成長フェーズは別物である
社内での発言権が大きいかどうかと、事業が成長フェーズにあるかどうかは、本来は別の話です。影響力のある事業ほど、成熟・縮小フェーズに入っていても成長投資が続いてしまう点には注意が必要です。
そして、多くの企業で問題になっていると思うことは、本来大きな投資をすべきでない「現在の花形事業」に限られた経営資源の多くを使ってしまい、現在は小さく発言権の弱い「将来の花形事業」に十分な投資が回らないことです。
この点は、企業の経営層が十二分に理解しておかなければいけない点だと考えます。
将来性のある事業に、どのようにシステム投資を行うべきか
将来性のある事業に対して、早期にシステム投資を行うことは有効です。ただし、それは業務プロセスを細部まで作り込むことを意味しません。

成長事業では「すべてを決めない」ことが重要
成長事業では、将来の業務変化を正確に予測することは困難です。現時点の前提で細かく業務を決めすぎると、変化への対応力を失い、システムが足かせになることがあります。

今決めた業務が、1年後も正解とは限らない!
骨格を固め、派生業務の無秩序な増加を防ぐ
成長過程では、派生業務や例外対応が次々に生まれます。骨格がないまま対応を重ねると、業務とシステムが複雑化してしまいます。そのため、初期段階で重要なのは、すべての業務を定義することではなく、「変えてはいけない骨格」を明確にすることです。
骨格として最初に決めるべきポイント
- 業務プロセスの大枠
- 受注・処理・完了といった主要な流れ
- どこで判断し、どこで引き渡すのかという境界
- データの持ち方・粒度
- 何をマスタとして管理するのか
- 将来の拡張に耐えられるデータ構造か
- 責任と権限の所在
- 誰が判断し、誰が例外を許可するのか
- 属人化しない責任分界点
- 派生業務を吸収するためのルール
- 個別対応をどこまで許容するのか
- 標準プロセスに戻すための前提条件
これらの骨格が定まっていれば、業務が変化しても、派生業務を秩序立てて取り込み、整理し直すことが可能になります。一方で、この骨格が曖昧なまま進むと、例外対応が積み重なり、やがて「なぜこの仕様があるのか分からないシステム」になってしまいます

「細かく決めないこと」と「何も決めないこと」は、まったく別物!
システム導入効果を最大化するための、IT投資の判断軸
最後に、システム導入効果を最大化するという観点での、IT投資に関する主な判断軸を挙げておきます。
- 将来の業務量を前提にしているか
- 事業フェーズに合った投資か
- 発言力ではなく、事業性で判断しているか
- 作り込み過ぎていないか
現在の花形事業であっても、将来の成長見通しが弱い場合には、投資の目的と規模を限定すべきです。一方、成長事業に対しては、作り込みすぎず、変化を前提に進化できる仕組みを整えることが重要です。
IT投資は、これまで会社を支えてきた事業へのご褒美ではありません。これから会社を支える事業を選び、その変化を支えるための経営判断です。
今回は、事業フェーズと将来性という観点で、システム導入効果の最大化についてお話しました。現在のビジネス規模だけで考えると、適切なIT投資規模にならないケースは非常に多いです。
企業グループの将来のために、もっと大きく投資すべき事業に、適切な投資することが重要です。これは、経営層でなければできない判断です。皆さんの会社のIT投資判断において、この点が十分に考慮されることを期待しています。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。ご意見・ご感想を頂けますと幸いです。
ITプロジェクト研究会



