まずは、基本的なプロジェクトのコスト構造を理解しよう❹ | データ移行

6回シリーズの第4回目です。以前の回でお話しましたが、コスト見積をするためには、まず工数を算出することが必要です。そして、その工数を出すためには、工数を決めるための見積前提を理解して、設定することが重要です。

今回はデータ移行です。データ移行は、ITパートナ側での見積間違いはあまり聞きません。一方で、ユーザ企業側で十分な工数が割り当たっておらず、苦戦する例は数多くあります。


データ移行を知っている人は少ない

プロジェクトに関わった経験をされた人は、たくさんいます。ただ、データ移行について知っている人は、あまりいないのではないかと思います。

下記の体制図を見て頂いて分かるように、プロジェクトチームの大半は、業務・アプリチームに属しています。そのため、業務・アプリに関する経験を積んだ人は比較的たくさんいます。

一方で、データ移行チームに関わっている人たちは、プロジェクトチーム内でも少数派です。そのため、多くの人が、データ移行に関して、あまりよく理解していないように思います。

そこで、データ移行の工数見積に入る前に、データ移行のタスクに関して、少し説明します。


データ移行の基本的な流れ

プロジェクトのマスタスケジュールで、データ移行のタスクというと、だいたい以下のようなものが多いのではないでしょうか。

移行計画

移行対象や移行スケジュールを定めるとともに、本番稼働までのタスクを定義する

移行手順/ツール作成

移行の具体的な手順を定義し、必要なツールを準備する

移行リハーサル

テスト環境で移行を試行し、手順や問題点を検証する。回数を重ねるごとに、目標・検証レベルも上げていく。何回行うかは、プロジェクトで決定する

データ整備・クレンジング

データの不整合や重複を修正し、移行に適した状態にする。たいていユーザ企業側のタスクであり、長期間に及ぶことが多い

本番移行

計画に沿って本番環境へデータを移行し、検証・問題対応を行う

これらタスクのなかでは、やはり、一番最初にある「移行計画」が最も重要です。

移行手順やツールをどのように作成するのか、移行リハーサルは何回実施して、各回では何をやるのか等を決めます。

データ移行の工数見積も、プロジェクトの最初は、ある程度ざっくりしたものに留まっています。移行計画を立てていくに際して、上記のタスクを具体的に決めていきますが、それにより、各タスクの工数想定も精度が上がっていきます。


一番重要なのは、移行データ一覧

さて、データ移行の工数見積ですが、重要なインプット資料は、移行データ一覧です。

  • 移行すべきデータのボリューム(=データの種類×データ件数)

データのボリュームが、まずは大きなインプットになります。これにより、必要な手順やツールの数。移行の大まかな規模などが見えます。

  • データの複雑性

データの複雑性によって、移行手順やツール作成の難易度(=工数)が変わります。

例えば、品目マスタは、非常にたくさんの情報が管理されています。そのため、品目マスタに関しては、色々な作業の手間が多くなります。

  • データの品質

データの品質は、主に、データ整備やクレンジングにかかる手間(=工数)に関係します。例えば、得意先マスタに、もう取引のない取引先や、名寄せができていない取引先が沢山あったりすると、データを整備・クレンジングする手間は多くなります。

このように、移行データ一覧は、工数見積をするために、とても大事なドキュメントになります。

さて、移行データ一覧があれば、工数見積に関しては問題無いか。残念ながら、そうではありません。ユーザ企業側の工数不足により、問題になるケースをよく見かけます。


難航しやすいデータ整備・クレンジング

よく見られる光景は、ユーザ企業側のデータ整備・クレンジングが予定通りに終わらない。そのため、移行リハーサルで確認すべき内容が確認できない。結果、移行リハーサルを何度も追加する羽目になるといったものです。

その際の原因としては、ユーザ企業側に、作業主体であることの十分な認識が無い。作業を完遂できるだけの工数が無いといったことです。

どうして、そういったことが起きるのでしょうか。


ユーザ企業側の工数についての認知が弱い

データ移行に関しても、多くの場合は、ITパートナが保有している工数見積ツールで算出していると思います。

その際、工数は、ユーザ企業とITパートナの工数を分けずに、プロジェクト全体の工数として出ています。その時点では、まだユーザ企業とITパートナとの作業役割分担が確定していないからです。

その後、役割分担が確定し、提案となります。ITパートナ分の作業は、提案金額の根拠として、ユーザ企業へ説明されます。一方、ユーザ企業側の工数ボリュームは、十分説明されていないことが多くあるように見受けます。

下記は、典型的なデータ移行に関するユーザ企業とITパートナとの役割分担表です。

ITプロジェクトにおいて、ほとんどの作業は、ITパートナが担うことが多いです。しかし、データ整備・クレンジングについては、ユーザ企業持ちになります。業務データの中身の妥当性が分からないと作業できないためです。

しかし、データ整備・クレンジングに掛かる工数については、認知が弱いように思います。

プロジェクト工数を見積もる際には、ユーザ企業側の工数についても、しっかりと確認することが必要です。

なお、データ整備やクレンジングについては、「やり始めてみないと、どんな問題が出てくるか分からない」という側面もあるため、正確に工数を予測することは難しいところがあります。この辺をどう対処するのかについては、別の機会に説明できればと思います。


データ移行工数も、その他の工数と同じで、ITパートナが持つ工数見積ツールで計算することが多いと思います。

ITパートナ側の工数見積が問題になることはあまり無いように思われます。一方で、データ整備やクレンジングに関するユーザ企業側の工数については、かなり苦戦しているプロジェクトも多いように見受けます。

プロジェクトが始まるタイミングでは、ユーザ企業側の工数については、あまり注目されないことが多いです。データ整備やクレンジングに掛かる工数は、後でよく問題になるところですので、注意が必要です。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。ご意見・ご感想を頂けますと幸いです。

ITプロジェクト研究会

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