グローバルプロジェクトとは何か|国内ITプロジェクトとの違いと進め方の全体像

国内プロジェクトと比べ、グローバルプロジェクトは関係者が増え、意思決定が分散され、調整が複雑になります。
言語や文化の違い、物理的距離、時差などを無視して国内プロジェクトと同じ感覚で進めると、途中で立ち往生することもあります。 本記事では、グローバルプロジェクトの全体像を理解し、国内プロジェクトとの違い、よくある課題、成功のポイントを整理します。
さらに、各論点を掘り下げた単体記事へのリンクも紹介します。
グローバルプロジェクトとは
グローバルプロジェクトは、単なる海外拠点を含むプロジェクトではありません。
複数国・複数拠点・複数組織が関与し、意思決定や業務運営が分散されるプロジェクトを指します。
この分散が、国内プロジェクトにはない複雑さと課題を生み出します。
グローバルプロジェクトの定義
特徴
- 複数国・複数拠点が関与
- 言語・文化・商習慣が違う
- 日本本社と海外現地の役割分担
- 時差・距離を前提とした運営
グローバルプロジェクトでは、文化や期待値の違いが問題になることが多く、これを「良い・悪い」で捉えるのではなく「前提条件の違い」として理解することが成功の鍵です。
なぜ難しいのか
国内プロジェクトでは、物理的距離も近く、文化や価値観も共有しているため、コミュニケーション・合意形成が比較的容易です。しかし、グローバルプロジェクトでは、物理的距離の離れた複数の国や拠点、異なる文化・価値観の異なる人達を巻き込むため、情報共有・意思決定のルールを明確化しなければ、混乱や遅延が起こりやすくなります。
| 観点 | 国内プロジェクト | グローバルプロジェクト |
|---|---|---|
| 組織構成 | 日本のみ | 日本本社+複数海外拠点 |
| 文化・言語 | 単一 | 複数(地域/国ごとに異なる) |
| 意思決定 | シンプル | 分散。承認プロセスが複雑 |
| コミュニケーション | 簡単、暗黙知 | 文書・会議・ツールが多層化 |
| 調整コスト | 低 | 高(文化・タイムゾーンの違い) |
このようにグローバルプロジェクトでは、国内プロジェクトで通用する「口頭での確認」や「暗黙知」に頼る進め方は通用しません。文書化やルール設計が不可欠です。
国内プロジェクトとの主な違い
グローバルプロジェクトでは、国内プロジェクトでは問題にならないことが課題になりやすいです。ここでは組織構造、文化、品質に対する考え方の3つの観点で整理します。
組織・意思決定構造の違い
| 観点 | 国内プロジェクト | グローバルプロジェクト |
|---|---|---|
| 意思決定 | シンプル | 分散・階層的 |
| 責任範囲 | 比較的明確 | 曖昧になりやすい |
| 調整 | 比較的容易 | 多段階調整が必要 |
グローバルプロジェクトでは、誰が最終判断するのか、エスカレーションルートはどうするのかを最初に設計することが重要です。[グローバルプロジェクトのガバナンス設計]
文化・価値観・働き方の違い

言わなくても分かるだろう

そこまで細かく決める必要はあるのか?
異文化チームでは、このような誤解が日常的に起こります。文化の違いを前提に意思決定や作業手順を設計しなければ、チーム内の摩擦や遅延が生まれます。[グローバルプロジェクトで文化の違いを認める]
品質に対する考え方の違い
日本では「完璧な品質」が求められることが多いですが、グローバルでは「目的達成に必要な品質」が優先される場合があります。このギャップを理解していないと、テストやUATでトラブルが発生しやすくなります。[グローバルプロジェクトの品質意識の違い]
グローバルプロジェクトでよく起きる課題
ここでは具体的な課題と、その背景・影響を説明します。
距離・時差・コミュニケーション
- オンラインミーティングでも、時差があると大変
- 距離が離れると、問題が発生したときに、疑心暗鬼になりやすい
- 問合せを無視されたり、逃げられたりすることもある
これらの課題は、進捗の遅延や誤解を招きます。適切な情報共有・コミュニケーションをどう成立させるか考える必要があります。[グローバルプロジェクトにおける距離・時差の障害]
テストフェーズでの品質の上げ方
テストフェーズでの品質の上げ方についても、違いがあります。例えば、日本では、システムテストまでにシステム品質を上げ切って、UAT(ユーザ受入テスト)は、ユーザによる最終確認の位置付けであることが多いです。一方で、海外では、UATも、品質を上げる重要なフェーズで、不具合も仕様変更も数多く上がります。
このあたりのアプローチの違いも理解していなければ、プロジェクト状況に対して大きな認識齟齬・誤解をしてしまいます。[グローバルプロジェクトにおける海外UATの勘所]
オフショア活用の難しさ
昨今は、グローバルプロジェクトに限らず、国内プロジェクトでも、オフショア活用が進んでいます。しかし、国内プロジェクト向けのオフショアセンタは、国内プロジェクトの経験が豊富で、日本流が十二分に理解されています。一方で、グローバルプロジェクトにおいては、日本流を理解していないオフショアセンタを活用することも多いです。
そのため、日本流の特徴や海外流との違いを客観的に理解して、オフショア活用を円滑に進める必要があります。[グローバルプロジェクトにおけるオフショア活用]

成功するグローバルプロジェクトの進め方(全体像)
グローバルプロジェクトでは、課題を理解するだけでなく、成功に導く進め方を最初に整理しておくことが重要です。ここでは、ガバナンス、標準化、本社と現地の関係性に焦点を当てます。
ガバナンスと体制設計
ガバナンスとは、意思決定のルールや責任範囲を明確にすることです。これが曖昧だと、意思決定の遅れや役割の衝突が生じ、プロジェクトの遅延につながります。
実践ポイント
- 複数の海外拠点を巻き込んで意思決定していくための枠組み
- 日本本社と海外現地の責任分担・協力体制
- 物理距離を超えて円滑に情報流通させる仕組み

グローバルプロジェクトでは、各地域・各国の様々な意見が上がってきます。誰がどのように意思決定するのかを決めておかなければ、路頭に迷ってしまいます。[グローバルプロジェクトのガバナンス設計]
標準化(グローバルテンプレート)
企業がグローバルプロジェクトを立ち上げる理由の大きな一つは、業務やルールの標準化です。しかし、地域や国をまたいで業務やルールを変えていくことは、難易度は非常に高いです。そのため、企業のガバナンスの強さを踏まえつつ、どのレベルで標準化していくのかを冷静に定めることが重要です。
標準化レベルの例
- 完全な標準化(グローバルワン)
- 特定の主要業務を標準化
- 会計業務の標準化
- マスタ、コードを標準化
身の丈に合っていない標準化のレベルを目指して、苦労している企業は多いように見えます。[グローバルプロジェクトの標準化・テンプレート]
日本本社と海外現地の関係性
本社と現地の関係性はプロジェクト成功に直結します。過干渉は現場の自主性を奪い、放任は方向性のばらつきにつながります。
- 海外現地の力量の見極め
- 海外現地の力量に合わせた日本本社の関与
- 日本本社が必ず担うべき役割は、戦略・方針
個別記事では、海外ローカルプロジェクトにおける海外現地を例に説明をしていますが、グローバルプロジェクトにおける海外現地との関係性においても、留意すべき点は同じです。[日本本社の海外現地への関与]
グローバル展開の考え方
グローバル展開では、初めの1か国目での成功が全体展開の鍵です。ここで得られる知見や改善点は、次の国や地域にそのまま応用できます。
1か国目(パイロット国)開始までに何を終わらせておくか
グローバルテンプレートの構築にあたって、色々なユーザ企業が悩むのが、どこまで準備をしてから、パイロット国での導入を始めるかということです。パイロット開始前までは、関係する地域・国が集まって喧々諤々と標準化について議論できますが、パイロット開始後はパイロット国のタスクに専念することが多いです。
そのため、パイロットをどう始めるのかが大変重要になってきます。[グローバルプロジェクトの1か国目の始め方]
2か国目以降の注意点
1か国目(パイロット国)のプロジェクトがどうだったのかは、2か国目以降のプロジェクト運営に直結します。
- パイロット国以外の地域・国を含めた標準化議論は、どの程度まで進んだのか
- パイロット国で実装された機能は、そのまま他の地域・国へ展開できるようになっているのか
- パイロット導入は、想定した工数・費用に収まったのか
パイロット導入プロジェクトを総括して、パイロット導入前に立てたグローバル展開計画を冷静に見直しすることが大切です。
人とチームのマネジメント
グローバルプロジェクトは、組織やプロセスだけでなく「人」の要素が成功を左右します。文化や働き方の違いを理解したうえで、チームを機能させる必要があります。
海外プロジェクトリーダとの協働
海外では、日本と違い、プロのプロジェクトマネージャがいます。グローバルプロジェクトにおいては、そういったプロのプロジェクトマネージャが採用されることがあります。ただでさえ海外現地の文化やお作法を理解しなければならないところに、さらに外部から登用されたプロジェクトリーダとどう付き合っていくのかも考えなければならないのです。
海外では、どうして外部採用されたプロジェクトリーダが活躍できるのか。それを理解することは、海外の文化やお作法を理解するうえで有用です。[プロの海外プロジェクトリーダ]
ホウレンソウ文化の落とし穴
日本では「報告・連絡・相談(ホウレンソウ)」が当たり前の文化ですが、海外ではそうではありません。しかし、「ホウレンソウが十分できていない」と海外現地に不満を持ってはいけません。海外に日本のようなホウレンソウ文化が無いのには理由があり、逆に、それが海外の良さに直結していたりします。
日本流の仕事において、ホウレンソウは基本です。プロジェクトにおいても、日本流で進める場合、ホウレンソウが有効に機能しないことは致命傷になりかねません。しかし、グローバルプロジェクトにおいては、日本レベルのホウレンソウを海外現地に求めることは厳しいです。まずは、どうして海外ではホウレンソウが日本ほど重要視されないのか理解することが、適切なプロジェクト運営の第一歩となります。[グローバルプロジェクトにおけるホウレンソウ]
グローバルプロジェクトでは、国内プロジェクトの常識は通用しません。複数国・複数文化・分散した意思決定を前提として全体像を理解することが、プロジェクト成功の第一歩です。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。ご意見・ご感想を頂けますと幸いです。
ITプロジェクト研究会


