仕組みだけでは足りないITプロジェクト成功の条件 ― 人材不足時代に問われる人間力と安心感

以前の記事では、ITプロジェクトにおけるガバナンスは「特定の人」に依存するものではなく、「体制と仕組み」によって実装されるべきだと述べました。これは重要な考え方です。

一方で、実際のプロジェクト現場では、仕組みだけでは立ち行かない場面が数多く存在します。本記事では、そうした現場のリアルを踏まえながら、人間力や信頼関係、そして「安心できること」が、いかにガバナンスの実現に寄与するのかを考えていきます。

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ITプロジェクトのガバナンスとは何か ― ガバナンスとは、人ではなく「仕組みと体制」である


仕組みだけでは解決できないプロジェクト現場のリアル

人材不足の中で、理想的なチーム体制を組めない現実

IT業界では慢性的な人材不足が続いており、プロジェクトに必要なスキルを持つ人材を十分に揃えることが難しいケースは珍しくありません。その結果、本来は分離すべき役割を一人が兼務したり、経験が十分でない人材を要所に配置せざるを得ない状況が生まれます。

体制設計や役割分担が、机上の空論になりやすい理由

ガバナンスの議論では、役割と責任の明確化がよく語られます。しかし、それを前提とできない現場では、体制図やルールが形式的なものになりがちです。

「決めてはいるが、守れない」「定義はあるが、実行できない」

こうした状態では、仕組みがあってもガバナンスは機能しません。

現場の声

体制図は立派だけど、実際は人が足りなくて回らない

人材のパフォーマンスは、事前には分からない

書類やインタビューでは見えない実務での実力

人材選定では、職務経歴書やスキルシート、インタビューを通じて評価を行います。しかし、それらで分かるのはあくまで一部です。実務の中でどのように考え、判断し、周囲と連携するかは、一緒に仕事をして初めて分かる部分が大きいのが実情です。

想定外のスキルギャップは、決して珍しくない

  • 経歴は十分だが、現場での判断が遅い
  • 技術力は高いが、周囲と連携できない
  • 期待していなかった人が、調整役として力を発揮する

こうした「想定外」は、ITプロジェクトでは日常的に起こります。

観点事前評価実務で分かること
スキル経歴・資格応用力・判断力
コミュニケーション受け答え調整力・相談しやすさ
責任感自己申告トラブル時の姿勢

計画通りに進まないのがITプロジェクトの常

IT技術の進歩は日進月歩

IT技術の進歩は、常に目覚ましく進歩しています。そのため、プロジェクトの都度、新しい技術・方法にチャレンジしなくてはならないことも多いです。結果として、事前調査で調べていた通りには動作せず、その場その場で臨機応変に対応しなければならないことも少なくありません。

ユーザ企業のビジネス外部環境の変化

市場環境、競争状況、法規制など、ユーザ企業を取り巻く外部環境も常に変化します。そのため、ITプロジェクトでは、不確実な未来のために要件や仕様を検討していかなければなりません。

また、大きな外部環境の変化によって、プロジェクトの途中で、方針や決定事項を大胆に変更しなければならないことも珍しくありません。

プロジェクトは常に新しいチャレンジに直面している

ITプロジェクトは、既知の問題を解くだけでなく、進めながら考える要素を多く含んでいます。そのため、計画通りに進まないこと自体は、普通のことだと考えられます。

計画変更の典型要因

  • 技術トレンドの変化
  • ビジネス戦略の転換
  • 組織・人事の変更

不確実性の中で求められる「人間力」

信頼できる人材と仕事をする意味

こうした不確実性の高い環境では、「この人なら任せられる」という信頼感が、判断スピードと行動力を大きく左右します。信頼できる相手であれば、すべてを細かく確認せずとも意思決定を委ねることができ、結果としてプロジェクト全体の進行がスムーズになります。

また、信頼関係があることで、判断が難しい局面でも「この前提で進めよう」と腹をくくった意思決定がしやすくなります。これは、完璧な情報が揃うまで待つのではなく、限られた情報の中で前に進むことが求められるITプロジェクトにおいて、極めて重要な要素です。

コミュニケーションしやすさがリスクを下げる

気軽に相談できる関係性があれば、小さな違和感や懸念点も早い段階で共有されます。問題が顕在化してから報告されるのではなく、「少し気になる」「まだ確証はないが」といった段階で話題にできることが、リスク低減につながります。

このようなコミュニケーションのしやすさは、会議体や報告ルールといった仕組みだけでは生み出しにくいものです。形式上は報告経路が整っていても、心理的なハードルが高ければ情報は滞ります。だからこそ、人と人との関係性が、ガバナンスの実効性を下支えする重要な要素となります。


知っている人と組むことが生む「安心」とガバナンス

知っている人であれば、パフォーマンスも想像できる

過去に一緒に仕事をした経験がある人であれば、その人の強みや弱み、仕事の進め方を理解しています。そのため、阿吽の呼吸が成り立ちやすく、過度な確認をせずに進めることができます。

安心できることも、ガバナンス実現の重要な要素

安心して判断できる状態があるからこそ、ルールや体制は機能します。安心感は、意思決定の質と速度を高め、結果としてガバナンスの実効性を高めます。

安心度合いが低いと、チームの立ち上がりに時間がかかる

一方、互いをよく知らないメンバー同士では、チームとしてパフォーマンスを発揮するまでに時間がかかります。誰にどこまで任せられるのかを探りながら進める必要があるためです。プロジェクトチームとしての円滑な活動定着までに、数か月かかることも珍しくありません。


仕組みと人、どちらかではなく両立が前提

ここまで見てきたように、ITプロジェクトでは仕組みと人のどちらか一方だけでは不十分です。仕組みはプロジェクトを安定させる土台となり、人はその上で変化に対応しながら前に進める役割を担います。
両者を対立させるのではなく、互いに補完し合うものとして捉えることが重要です。

仕組みは最低限の安全装置

属人化を防ぎ、一定の品質を保つために、仕組みは不可欠です。役割定義や承認フロー、会議体といった仕組みがあることで、「誰がいなくても最低限は回る」状態を作ることができます。

また、仕組みは個々人の判断を縛るためのものではなく、判断に迷ったときの拠り所として機能します。これにより、経験やスキルに差があるメンバーが混在するチームでも、一定の秩序を保つことが可能になります。

人は変化に適応する推進力

一方で、想定外の事象に対応するのは常に人です。前提条件が変わったとき、ルールに書かれていない判断が求められたとき、最終的に決断するのは人しかいません。

仕組みは人の判断を支え、人は仕組みを生かします。仕組みだけでは前に進めず、人だけに頼れば不安定になる
この緊張関係を理解したうえで、人の判断力と現場対応力を活かすことが、プロジェクト推進力につながります。

現実的なガバナンス設計とは何か

現実的なガバナンスとは、「人に依存しない完璧な仕組み」を作ることではありません。そのような仕組みは、そもそも現場の複雑さに耐えられないことが多いからです。

むしろ重要なのは、人の力を前提としたうえで、安心して機能する仕組みを設計することです。信頼関係があり、相談しやすい環境があるからこそ、仕組みは形骸化せず、実効性を持ちます。ガバナンスとは、ルールを守らせることではなく、人と仕組みが噛み合い、継続的に機能し続ける状態を作ることだと言えるでしょう。


世のなかにあるプロジェクトマネジメントの教科書は、「仕組み」だけを語っているように見えます。一方で、現実のプロジェクトは、「人」に頼り過ぎているように見えます。

実際には、ここでお話したように、「仕組み」と「人」の両方が重要です。皆さんのプロジェクトでは、両方を常に見ながら、より有機的で効果的なガバナンスを実現していって頂ければと考えます。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。ご意見・ご感想を頂けますと幸いです。

ITプロジェクト研究会

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