グローバルプロジェクトにおける海外UATの勘所 ― 日本型UATとの違いから考える ―

グローバルプロジェクトでは、システム導入先として、海外拠点でUATを行うことになります。しかし、日本で慣れ親しんだUATの感覚でいると、違和感や混乱を生じがちです。
プロジェクトのフェーズ構成は、日本だけでなく、海外でも基本的に同じです。そのため、日本流のUATを無意識に想定してしまいます。しかし、海外では、海外流のUATをやっており、日本流とは違っています。この辺が違和感や混乱の原因となります。今回は、この辺をお話していきます。
なお、文化の違い、品質に対する考え方の違いなどの全体的な理解については、グローバルプロジェクトの全体像をご覧ください。
なぜ海外で実施するUATは、日本人にとって難しく感じるのか
海外UATに立ち会った日本人がまず感じるのは、「想定よりもバグや指摘が多い」「議論が収束しにくい」といった戸惑いです。しかし、これらは品質の問題というより、UATに対する前提認識の違いから生じています。
海外UATでは、日本側が想定していた「システム機能の最終確認フェーズ」とは異なる振る舞いが数多く見られます。その違いを理解せずに臨むと、UATそのものがコントロール不能に見えてしまいます。
海外UATが「荒れて見える」理由
海外UATは、議論が活発で指摘が次々に出るため、日本人の目には「収拾がついていない」ように映りがちです。しかし、それはUATを通じて完成度を高めるという考え方の表れでもあります。
海外では、UATは「最終確認」ではなく「実運用に耐えられる形に仕上げる場」と捉えられることが多くあります。
そのため、UAT中に気づいた違和感や不満は、その場で率直に出すことが期待されます。議論が活発になるのは、責任感が低いからではなく、むしろ「ここで言わなければ後で困る」という意識が強いからです。
バグが多いのではなく、出るタイミングが違う
海外UATでは、日本であればSIT以前に出ていたはずの指摘がUATで表面化します。品質が低いのではなく、問題を洗い出すフェーズが後ろにずれているだけだと理解することが重要です。
日本のプロジェクトでは、SITまでに品質を作り込み、UATは確認中心になることが多くあります。一方、海外では「使ってみて問題を出す」こと自体がUATの役割とされがちです。
その結果、日本人から見ると「なぜ今さらこの指摘が?」と感じる場面が頻発しますが、これは品質意識の差ではなく、工程分担の考え方の違いだと言えます。
日本型UATと海外型UATの前提の違い
日本型と海外型のUATの違いは、進め方の巧拙ではなく「何を確認する場なのか」という目的の違いにあります。この前提を理解しないと、UAT中の議論はすれ違いやすくなります。
- 日本型UAT 仕様通りか
- 海外型UAT 業務遂行可能か
日本型UATでは、要件定義や設計の正しさを確認する意味合いが強く、仕様との一致が重視されます。
一方、海外UATでは「多少仕様と違っていても、業務が回るかどうか」が判断軸になりやすく、仕様変更や改善要望が自然に混ざってきます。

海外UATを破綻させないためのマネジメントの基本
海外プロジェクトでは、日本のプロジェクトよりも、マネジメントがマネジメントとして機能していることが多いように見えます。日本では、現場ユーザの声が一定以上大きいと、マネジメントとしても留意せざるを得ず、英断できないことが多いですが、海外では違います。
海外マネジメントは積極的に決断し、現場を統制できる
海外UATでは、現場の意見をすべて満たすことは前提とされていません。マネジメントが意思決定し、どこで折り合いをつけるかを明確にすることが求められます。
海外では、最終的に「マネジメントが決める」ことが自然に受け入れられています。
現場の声を聞いたうえで、優先順位をつけ、対応範囲を決める。この役割をマネジメントが果たすことで、UATは前に進みます。
ポイントは、日本型UATと同じ。海外マネジメントが判断できる材料を与えることが重要
文化が違っても、マネジメントの原理は日本と大きく変わりません。違いがあるとすれば、判断の速さであり、そのために必要な材料を揃えることが重要になります。
海外マネジメントは、日本以上に「判断」を求められます。そのため、判断材料が整理されていないと、決断自体が遅れ、UATが迷走します。
重要なのは、感情的な指摘を構造化し、選択肢として提示することです。
不具合の分類ルール
海外UATでは、すべての指摘が「バグ」として上がってくることが少なくありません。だからこそ、バグと仕様変更を切り分ける明確な基準が不可欠です。
「仕様に反しているのか」「仕様通りだが使いにくいのか」を切り分けるだけでも、議論は整理されます。
分類ルールを明示することで、対応可否の判断が容易になり、無用な対立を避けることができます。
反復前提でUATを計画
海外UATを一度きりで終わらせようとすると、必ず無理が生じます。基本業務から始め、派生、例外へと段階的に確認する前提で計画することが現実的です。
最初からすべてを確認しようとすると、論点が拡散します。
まず「最低限業務が回るか」を確認し、その後に改善や例外を扱うことで、UATは整理された形で進行します。
UAT中にミニ開発サイクルを組み込む
海外UATでは、指摘を受けて終わりではなく、修正・再確認までをUATの中で回すことが前提になります。UAT中にも小さな開発サイクルを組み込む設計が必要です。
指摘を溜め込まず、短いサイクルで反映することで、現場の納得感は大きく高まります。
海外UATは「検査工程」ではなく、「仕上げ工程」だと捉えることがポイントです。
日本側のプロジェクトリーダが果たすべき役割
海外UATにおいて、日本側プロジェクトリーダは単なる進捗管理者ではありません。日本的な整理力を活かし、海外側の曖昧な基準を構造化する役割が求められます。
日本側プロジェクトリーダの介在によって、海外UATは初めて「判断可能な場」になります。
日本側プロジェクトリーダの役割は、海外のあいまい基準を構造化すること
海外ユーザの指摘や不満は、感情や主観が混ざった形で表現されることが少なくありません。それらを分類し、判断可能な形に落とし込むことが日本側プロジェクトリーダの価値です。
指摘を「要望」「不満」「必須要件」に分解し、整理することで、マネジメントは意思決定しやすくなります。
この構造化こそが、日本側プロジェクトリーダの最大の貢献領域です。
海外現地の十分な理解を得られるよう、会話を尽くす
ルールや結論を一方的に伝えるだけでは、海外UATはうまく進みません。なぜそう判断するのかを丁寧に説明し、納得感を積み重ねることが重要です。
海外UATでは、「結論」よりも「プロセス」が重視されます。会話を尽くし、理解を得ることが、結果としてUATを円滑に収束させる近道になります。
海外UATが荒れて見える理由は、品質問題が発生しているからではありません。日本と海外とのプロジェクトフェーズに対する考え方の違いによるものです。そのため、品質を上げていくアプローチは、日本で行っているものが有効に機能しますが、まずは、考え方の違いを理解することが非常に重要になります。
これまでの回でもお話していますが、グローバルプロジェクトにおいては、まずは考え方の違いや文化の違いを理解することが非常に重要です。
なお、文化の違い、品質に対する考え方の違いなどの全体的な理解については、グローバルプロジェクトの全体像で整理しています。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。ご意見・ご感想を頂けますと幸いです。
ITプロジェクト研究会





